代表メッセージ

「演じる」世界に出逢った高校時代。
なんとなく直感で入部を決めた演劇部で、毎日筋トレと発声練習、作品稽古に打ち込んだ日々。
今思えば、この時代に役者としての基盤を培ったように思います。
“自分ではない誰かの人生を過ごす”という感覚。
それが妙に心地よくて、プロの俳優になることを夢見るようになりました。

しかし、経済的な理由で、高校卒業後は、演劇とは程遠い公立大学の外国語学部へ進学。
結局、演劇に関わることなく大学生活を過ごすなか、就職活動を目前に、ひとつのターニングポイントが訪れます。
あるNPO法人が主催する市民ミュージカルとの出逢いです。
「100人100日ミュージカル」。
地域の100人を集めて、100日でミュージカルの舞台を創り上げるというものでした。
幸運にも私はその作品の数少ないソロ役に選ばれ、初めてミュージカルの舞台に立ちました。

“プロじゃなくても舞台に立てる。その楽しさが味わえる。”

この活動にとてつもない可能性を感じ、それからの数年はその活動に夢中でした。

ところが、何度か出演する中で、100人のなかで役に選ばれることがなくなっていき、活動自体にはやりがいを感じつつも、 次第に役者としてのもどかしさを覚えるようになります。

主役がしたい。もっと歌いたい。目立ちたい。自由に表現したい。
そんな場所があれば…

“無いなら自分で創ろう”

そこで立ち上げたのが、劇団Compassの前身である 表現集団en+伐娑羅-BaSaLa-(2011-2018)です。
根拠のない自信と共に、右も左もわからないまま脚本・演出を手がけ、公演を打ちました。
そして、手探りながら自分の”やりたい”を形にしていくなかで、新たな感覚が芽生えはじめます。

舞台での成功体験を通して、目の前の人の人生にきっかけを作ることができるかもしれない。
この人にスポットライトを当ててみたい。
まだ本人も気づいていない可能性を引き出してみたい。

その気持ちが創作意欲を突き動かし、スキルや経験ではない、その人の人間性を表現する舞台づくりにこだわり、物語を紡ぎ出しました。
この思いに共感してくれる仲間たちの才能が集まり、自分たちの手でオリジナルミュージカルを創作。
ありがたいことに、小規模公演ながら多くのお客様に来場頂き、会場は満席。
思いがあれば、無謀に思えることも現実に出来るという体験を積み上げていきます。

その反面、活動を続けていく中でふと不安になりました。
このまま知識も経験もない自分が、脚本家・演出家として人前に立っていて良いのか。
素人の根拠のない自信は、果たしてこの先通用するのか。

30歳を目前に、もう一歩先へ進むことを決めました。

プロとしての経験と実績が必要だと思った私は、団体を一旦活動休止。
大阪にあるミュージカル劇団のオーディションを受け、2015年に入団を果たします。
それが、高校時代に夢見たプロの俳優としてのデビューでした。
劇団で数多くのミュージカル公演を経験し、責任感も達成感もレベルが違う、プロの世界で実績を積むことが出来ました。

しかし、ここでもやはり壁にぶち当たります。
想像以上に生活は安定せず、プロであっても食べていけないという現実を痛感。
2年間の活動の末、退団を決意します。
やりたいことが目の前にあるのに、続けられない苦しさともどかしさでいっぱいでした。
思いと努力だけで形に出来ていた20代を卒業し、初めて弱気になっていました。

そんな時、これまで自分の団体の公演を観に来てくださった、沢山のお客様の笑顔や、涙ながらに感想を伝えてくださった方々の顔が思い浮かびました。

“そうだ。経験や実力以上に繋いだ縁と仲間がいる。これが何より大切なことかもしれない。演劇には人と人を繋ぐ力がある。これを何年も前に体現してるじゃないか。”

“もう一度やってみよう。”

ミュージカル劇団を退団後、主宰団体の活動を再開し、2018年1月に、ミュージカル『ネズミはライオンにはなれない』を再演。チケットは本番1ヶ月前に完売。大成功で幕を下ろすことが出来ました。

そして2018年4月、本業を持ちながらも表現活動を続けたいと強く思う仲間たちがスタッフとして加わり、団体を改称、神戸を拠点に劇団Compass旗揚げを決意しました。

現代は、YouTubeやSNSを通して、プロとアマチュアの境目なく、誰もが表現を発信できる時代となりました。
しかし、表現の場を求めていながら、それぞれの環境や条件によって、諦めている人はまだまだ沢山いるように思います。

何かを目指せる歳ではないから…
仕事や家庭があるから…
プロを目指しているけれど、なかなか活躍の場がない…

それらは、もしかしたら既成概念による思い込みかもしれません。
そんな壁や枠を取り払い、一人ひとりが、自由にのびのびと表現活動を出来る場を創ることが、私の願いです。

縁あって移住した神戸の街。文明開化と異国情緒の香り漂うこの地から、一人ひとりの個性を活かし、新しい表現を発信して参ります。
人の数だけ、”出来ない”の数だけ可能性があると信じて。

今後の劇団Compassの活動に是非ご期待ください。

劇団Compass
代表 横田裕久